銅板の価値
数年前にマクドナルドでハンバーガーとドリンク類の組み合わせを50元で販売する「銅板輕鬆點」というミニセットが始まりました。
「輕鬆點」というのはお手軽なセットという意味合いだというのは何となく分かったのですが、「銅板」というのが分からずに知り合いに聞いたところ、どうも安いとか、リーズナブルという意味合いでした。
その後も台北駅前の予備校街に連なる食堂街でも「銅板」を掲げるところがあり、なぜ銅板なのか不思議に思っていました。
実はその答えは辞書にありました。
『新編國語日報辭典』によると、次の通り説明があります。
銅元的俗稱。
(銅貨の俗称)
出典:『新編國語日報辭典』
これによると、本来は銅銭の意味を指し、今日では貨幣を指すことが多くなったとあります。
つまり支払いが貨幣だけで済むもの、すなわちその機能性に注目し、リーズナブルなものという意味合いが引き出せます。
日本語的にはワンコインに近いニュアンスでしょうか。
下水を、すする
台湾のB級グルメに「下水湯」なるものがあります。
日本人的には吐き気を催しそうなものですが、中国語においては「下水」は動物の内臓(モツ)を指します。
台湾では、特に鶏や鴨の内臓を指すようで、牛モツなど、他の動物の内臓は牛雜など、「雜」の字を使います。
ちなみにこの不思議なネーミングですが、調べてみると、英語の内臓を意味するhasletの日本語の発音が台湾語に音訳されたという説明が多いのですが、いろいろと理屈が通らず、実際にはその由来については不明なようです。
この下水湯はショウガを効かせたスープに砂肝などが入っているもので、歯ごたえもよく、個人的にはおすすめです。
台湾茶、なぜうまい
台湾みやげとして人気の台湾茶。
専門店では、凍頂烏龍茶や東方美人茶など、いろんなお茶が並びます。
台湾茶がなぜ美味なのか。
その美味たる理由については高温多雨の気候や高山での栽培などが紹介されることが多いですが、植物学的にはもっと違った見方ができるようです。
以下、茶の鑑定クラスでの講義の内容を基にその理由をご紹介します。
・緯度的に原産地の緯度に近い
チャの原産地は中国の雲南省と言われていますが、その緯度は台湾とほぼ同じです。
また雲南省は全体的に標高が高く、高山が連なります。
気候的にも似通っているようです。
作物はそれぞれの耕作地で適応するように品種改良が重ねられていますが、やはり原産地に近い環境ほど、その作物本来の能力が十分に引き出され、それが味にも反映するようです。
紅茶の一大産地として有名なインドのアッサム地方も雲南省にやや近い緯度に位置しています。
・高山特有の気候(特に高山茶)
一般的に標高1000m以上の場所で栽培されるものを高山茶として区分されています。
高山茶が栽培されるような場所は昼夜の寒暖の差が大きいのが特徴です。
ここからは生物学の知識ですが、植物は日中には光合成と呼吸を行われ、夜間は呼吸が引き続き行われます。しかし気温が下がると、この呼吸の動きが鈍くなります。
つまり昼夜の寒暖差が大きいということは光合成により養分が盛んに生産され、気温が低くなる夜間は呼吸で消費される養分が抑えられることにより、植物に養分が蓄えられていきます。これがおいしさへとつながっていきます。
このように植物学的に台湾の高山茶栽培地は正に天賦の栽培地であると言えます。
栽培地の標高が高いほど、お茶の雑味が消え、味・香りがより豊かになります。
そんな台湾茶を味わってみてはいかがでしょうか。
タピオカを知るなら
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ちまきな南北問題
今年も端午の節句が近づいてきました。
それに合わせるかのように目にしたり、飛び交ったりするのがちまき。
中国古代屈指の詩人で端午の節句にあたる旧暦の5月5日に入水自殺した屈原の弔いとその屈原の亡骸を魚が食べないようにとのことで、竹筒にご飯を入れて川に奉じたのが始まりとされています。
ちなみに台湾や沖縄でこの時期に行われるドラゴンボートもこの屈原を助けるために船を出したことに由来しているらしいです。
さて台湾ではいろいろと「南北問題」を起こしているのですが、それはちまきにもあり、ざっくりと北部粽と南部粽が勢力を二分しています。
大まかな傾向は次の通りです。
【北部粽】
・葉・皮:黄褐色で、斑点のあるマダケ(真竹)の筍の皮
・作り方:もち米と調味料を炒め、下拵えをした具材を包んでしっかりと蒸す
・具材:豚肉、豆干、筍、味付けタマゴ、シイタケ、干しエビ
・味など:味や香りが濃厚で、噛み応えがある
【南部粽】
・葉・皮:マチク(麻竹:メンマの材料)の緑色の葉を使い、香しい
・作り方:水に浸したもち米に下拵えをした具材を包み、水で煮る
・具材:一般的には赤身肉や豚バラ、シイタケ、卵黄、エシャロットを使い、その他にピーナッツやクリ、イカ、干しエビなどを加える
・味など:味は比較的あっさりめ、米粒は形をくずし、粘り気がある
いろいろ調べたところ、包む葉・皮やもち米の処理の仕方がはっきりと違う他は具材についてはかなり自由な感じでした。
台湾らしく、そこはおいしければよいということでしょうか。
ちなみに北部粽はカロリー高めと、どこにも書いてありました。
数奇な運命の青菜姫
今回は音訳が生んだ悲劇の単語。
ゆで野菜を頼むと、「大陸妹」という青菜が出てくることがあります。
この野菜、福山萵苣というレタスの仲間で、食感もレタスらしいシャキシャキ感を感じられます。
さてその愛らしいネーミングについてはやはり台湾語が関わっているようです。
曹銘宗という作家によると、台湾萵苣(台湾レタス)は台湾語では「萵仔菜(e-a-tshai)」と読まれていたところ、eとaの発音が似ているため、a阿菜と発音され、さらに台湾南部では「妹仔菜(me-a-tshai)」と発音されていました。その後台湾市場に中国大陸種のレタスが持ち込まれた際に「大陸妹仔菜」と呼ばれ、さらに短く読まれて「大陸妹」となったとのことです。
ちなみに「大陸妹」と呼ばれるようになったのは2000年ごろかららしいですが、もともとは違う意味でした。
1980年代以降、密入国や偽装結婚により渡台し、非合法に性サービスに従事した中国人女性のことを「大陸妹」と言っていました。そのため大陸妹はネガティブな印象がつきまとっていました。
2017年6月中旬に台北藝術大學の大学院生である曾品璇さんが問題提起をし、大陸妹の改名運動が興りました。
その波は広く伝わり、2018年には農業委員会(日本の農林水産省に相当)が大陸妹は差別的ニュアンスがあるということで、大陸妹を使うのは控え、福山萵苣や大陸A菜などを使うようPRしました。
今はまだ移行期で大陸妹と呼ぶことが多いですが、ここ数年で福山萵苣と呼ばれるようになるのかもしれません。
高麗由来の野菜?
前回に引き続き、音訳が生んだ不思議な単語。
日本でもお馴染みのキャベツ、台湾では「高麗菜」と表記されます。
「高麗」というと、朝鮮半島や韓国を連想しますが、その由来を調べるとどうもそうではないらしいのです。
台湾にキャベツが持ち込まれたのは17世紀ごろ。当時台湾を統治していたオランダ人やスペイン人によってもたらされました。そのキャベツ、オランダ語では「Kool」、スペイン語では「Col」と発音されますが、その発音が台湾語の「高麗」に似ているため、音訳として「高麗」という文字がふられたそうです。
ちなみに俗説として日本統治時代にキャベツを売り込む際にキャベツの栄養価の高さに注目して、高麗人参に匹敵すると宣伝したために、後に「高麗菜」となったという説もあります。
さてどちらが正解か
バカなる麺
留学ビザなどの申請でお世話になる移民署。
その近くに傻瓜乾麵、日本語で「バカ麺」なるものを看板に掲げる食堂があります。
この不思議な名前の麺を注文すると、茹で上がった麺にラードとネギがかけられたものがサーブされます。これに烏醋(ウスターソース)やラー油、食べる唐辛子的なものを混ぜて食べる麺料理です。
さてその不思議なネーミングの謎。
この傻瓜乾麵そのものは戦後の1950~60年代に福建省から渡ってきた人が小南門で売っていた汁なし麺にさかのぼるのですが、ネーミングについては諸説あり、はっきりしません。
中国語版wikipediaでは次の3つの説が紹介されていますが、他の解説もおおむねこのような説明です。
1.作り方が簡単でバカでも作れるから
2.お客のために苦労をいとわず、見返りを求めず、精を出すという経営理念はバカでこそできることだから
3.昔注文する際に「汁なし麺を作ってくれ」という台湾語「煠寡乾麵」の「煠寡」(sa̍h kuá)が中国語の「傻瓜」(バカ)と同じ発音で、そのうち汁なし麺を「傻瓜乾麵」と呼ぶようになったため
ちなみに発祥の地に立つ「小南門福州傻瓜乾麵」(冒頭で紹介した食堂)では、3番の説が採られています。
この傻瓜乾麵に限らず、字面通りの意味ではなく、音訳などで表記されているものもあるので、商品名はなかなか奥が深いです。