正しき港に本物あり

あるベテラン女優さんのプロフィールを見ていたら、「正港」という字が出てきました。

 

教育部の「臺灣閩南語常用詞辭典」では、こう説明されています。

指正宗道地的,非冒名的。

(正真正銘の本物、偽物ではないということを指す)

"正港 tsiànn-káng" - 臺灣閩南語常用詞辭典

 

すなわち「本物」という意味とのこと。

 

1683年に清朝が台湾を領有化した後、中台間の交易を行うことができる港を公式に定め、検査、課税をしました。

恐らく明朝以来の海禁政策の一環でしょうが、このように公式に認定された港のことを「正口」または「正港」と言われていました。

 

海上交通が今ほど発達しておらず、海禁政策により交易が制限されていた中では、交易品は必然的に高級品となったため、密輸品も出回りました。そのため指定の交易港から輸入された交易品は正規の交易品ということで、「正港的」と言われるようになりました。

その意味、用法が拡大され、本物、正統、正真正銘という意味に転じていきました。

 

「言葉にも歴史あり」ということでしょうか。

 

【参考】

正港(tsiãʟ-kaŋˋ)──真正 | 臺灣話的語源與理據(劉建仁著)

台灣地名真相:為什麼北港在南部,南港在北部?-風傳媒

https://nrch.culture.tw/twpedia.aspx?id=3627

黄身エリア

ネットニュースを見ていたら「蛋黃區」という単語がありました。

 

日本語にすると、「黄身エリア」

 

調べてみると、都市中心部の繁華街や商業集積地、交通アクセスがいいなど、いわゆる地価の高いところを指しているようです。

 

もとはテレビ局の中の言い方だったようで、逆に「蛋白區」(白身エリア)というエリアもあるようです。

 

参考:https://blog.housetube.tw/3540

ザ・台湾のおばちゃん~林美秀

夕べ放映された「路〜台湾エクスプレス〜」、ご覧になったでしょうか。

 

オープニングに出てきたやかましいおばちゃん。

いかにも台湾のおばちゃんという感じですが、「台湾料理屋のおばちゃん」という役名で演じられているのは林美秀さんという女優さんで、台湾のおばちゃんの代表的なイメージとして台湾の映画やドラマでよく出演されている方です。

映画「ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど」でも台湾料理屋のママで出演していましたし、最近ではUber EatsのCMでほぼ毎日お見かけします。

youtu.be

youtu.be

 

1967年生まれの宜蘭県羅東出身。

主に舞台で活躍されていましたが、のど飴のCMに出演したことで、活躍の場をドラマや映画などへ広げていった方です。

彼女の演劇の実力は確かで、何度も助演女優賞を受賞している素晴らしい女優さんです。

 

おばちゃんらしい快活なしゃべり方だけではなく、ちょこちょこ台湾語も交えて話すので、彼女が出てくると、一気に場面がにぎやかになります。

 

中国語が聞き取れる方はどのあたりが台湾語か注意して聞いてみるとおもしろいですよ。

留職停薪

コロナウィルスの影響で、台湾の経済界も少なからず影響を受けています。

その関係で「留職停薪」という用語を見かけるようになりました。

 

この用語について教育部の『重編國語辭典修訂本』では次のように説明がされています。

受雇者因應徵入伍、出國進修等因素,保留職務,停止支薪。

被雇用者が兵役や国外留学などを理由として、職位を保留するとともに給与の支払いを停止すること。

http://dict.revised.moe.edu.tw/cgi-bin/cbdic/gsweb.cgi?o=dcbdic&searchid=Z00000063571

 

日本とは労働制度が異なるので、なかなかぴったりの翻訳がないのですが、「給与の支払いを伴わない一時帰休」という日本語訳がベターだと思います。

控はフェチ

ネットサーフィンをしていたら、抹茶控など「○○控」という表現を見かけました。

 

「○○控」は英語のcomplexの音訳で「○○依存症/愛好家」という意味です。

 

もともとがネットスラングらしいのですが、「○○フェチ」という訳し方がいいでしょうか。

社会の窓はダムのこと

男性ズボンのチャックが閉まっていない時、やんわかと「社会の窓が.....」と言いますが、なぜ社会の窓と言うのかというと、昭和23年から昭和35年まで放送されていたNHKのラジオ番組「インフォメーションアワー・社会の窓」が由来とのこと。

この番組は社会の隠された問題を探るという内容だったらしく、見えない部分が明らかになる部分にひっかけて、男性ズボンのチャックを「社会の窓」という言うようになったのだとか。

 

このデリケートな部分、台湾では「你的石門水庫沒關」とか、「你的石門水庫沒關好」と、「あなたの石門ダムがまだしまっていませんよ」というようです。

 

ここでいう「石門水庫」とは、桃園市と新竹県にまたがる、台湾最初の多用途ダムで、かつては極東一とうたわれていました。

ちなみに建設工事自体は戦後に始められましたが、計画そのものは戦前からあり、烏山頭ダムの建築に関与した八田与一も携わっていたとのことです。

 

閑話休題

 

諸説あるようですが、あるミスコンで「チャックが閉まっていないことに気づいた時、あなたならどうしますか」という質問に対して、ある参加者が「私なら、あなたの石門ダムがしっかり閉じていないですよと言います」という答えたからというのが一般的に知られている説だそうです。

 

大分古い話なので、真偽のほどは藪の中ですが、社会の窓をダムに例えるとは、全く言い得て妙です。

 

「跨ぐ」か、「過ごす」か

何年も台湾に住んでいるのに、今さらで恥ずかしい限りですが、新年を迎えるという表現について、「跨年」と「過年」の2つがあると気づきました。

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実は使い方もうまく分かれていて、「跨年」は新年を迎える際に、「過年」は旧正月を迎える際に使われるようです。

 

またそこから醸し出される印象も違い、「跨年」は友人と過ごすクリスマスのような楽しい印象、過年は家族が集まる温かい印象という感じを受けます。

 

それぞれイベント的な印象と民俗風習的な印象を感じますが、昨年も触れた通り、新年の迎え方について時間感覚・暦感覚が日本人とは異なるようです。

 

「跨」という字は何かを足で(その何かに接触せずに)越えるという英語のbeyondに近い印象が、「過」という字は何かを通り過ぎる(突き抜けていく)という英語のthroughに近い印象がそれぞれあります。

 

ここでは「接触」がポイントになるかと思いますが、そこから「跨年」は「過年」とはどこか冷めた感じがします。

確かに台湾での生活における肌感覚として、「跨年」は日常生活の延長上にあり、「過年」は年が改まるという緊張感や期待があります。

 

このように新年を迎える気分が台湾と日本で違うのは、明らかに旧暦(農暦)の扱いによるものです。

日本では、明治維新以降、政府は新暦(グレゴリオ暦)の徹底を図ってきました。また日本の産業構造の中心が農業以外に移ったことで、農作業とも密接な関係にある旧暦が必要とされなくなったと思われます。

他方で中華圏は日本よりも農業から工業への基幹産業の移行が遅かったことが世間のニーズとして旧暦が必要とされたと思います。

また暦の制定は長らく政権君主の専権事項という思想が残存しているため、西洋文明の定めるグレゴリオ暦は受け入れられなかったということも考えられますが、社会の近代化が日本よりも緩やかだったことが旧暦に基づいた生活がまだ残っているのかもしれません。

冬至と言えば

今日は冬至。

 

今年も例年通り紅豆湯圓をいただきました。

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旧暦で初めて満月が出る元宵節とともに湯圓を食べる冬至。

なぜ冬至に湯圓を食べるかについて、特集がありました。

jp.taiwantoday.tw

茶化してはいけない烏龍

12日の午後に急に飛び込んできた、遠東航空の運航停止のニュース。
そのニュースをウォッチしていたところ、出てきた「烏龍」の文字。

news.ebc.net.tw

「烏龍」といえば、真っ先に思いつくのは黒い龍の形から名付けられた烏龍茶。
続いてうどんの音訳である烏龍麵、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の台湾語訳の烏龍派出所。

 

烏龍はいろいろな使われ方をしていますが、「教育部重編國語辭典修訂本」では次のように説明されています。

 

①黑色的龍。清.袁枚《子不語.卷一一.風水客》:「公面純黑,頸以下白如雪,相傳烏龍轉世。」
②晉朝時,民俗以「龍」字做為家犬的命名。後世則以烏龍泛指犬。唐.白居易〈和夢遊春詩一百韻〉:「烏龍臥不驚,青鳥飛相逐。」宋.柳永〈玉樓春.聞風歧路連銀闕〉詞:「烏龍未睡定驚猜,鸚武能言防漏泄。」
③泛指出乎意料之外的錯誤或失誤。如:「今天的籃球賽,竟然有球員誤投籃框,真是太烏龍了!」

 

出典:教育部重編國語辭典修訂本

 

ニュースのタイトルに出てきた「烏龍」はどうも③の想定外のミス、失敗のことを指しているようです。

 

もともと黒い龍を意味する「烏龍」がミスや失敗を表すようになったのか。

 

いろいろ聞いてみたところ、どうも広東地方の民間伝承に由来しているようで、概ね次のように言われています。

 

旱魃が続いた時、人々は天が青龍を遣わして恵み(の雨)をもたらし、万物を潤すよう祈っていたところ、青龍ではなく、烏龍(黒龍)が現れ、暴風雨や洪水をもたらし、逆に災いを招いてしまったという

 

黒龍は災厄をもたらす厄介な存在として描かれていますから、ここからミスをする、でたらめなことをするなどの訳が出てきたようです。

”烏龍”的由來? | Yahoo奇摩知識+

自擺烏龍:“自擺烏龍”是烏龍球的成語說法,它源於廣東的一個民間傳說:久旱 -百科知識中文網

https://kknews.cc/zh-tw/news/3nmnbq8.html

 

ちなみに「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の台湾語訳である「烏龍派出所」。

これはミスなどの意味から派生し、訳の分からない騒ぎが起こる派出所という作品の骨子を押さえた訳のようです。

正に名訳!

zh.wikipedia.org

謝罪もいろいろ

覚えておきたい中国語、謝罪の言葉

 

台湾華語(中国語)を勉強すると、日常的には「不好意思」をよく使うのですが、実はちょっと軽い言い方だったりします。

日本語のニュアンスとしては「ごめん」という感じでしょうか。

ちなみに「pháinn‑sè(歹勢)」という台湾語も多用されますが、こちらもニュアンスとしては「不好意思」に近いです。

 

やや程度を増した感じ、「すみません」に近いニュアンスでは、「抱歉」が使われます。

 

「申し訳ありません」など、公式的に謝罪の意を示すには「對不起」が使われます。

 

私も仕事上ではよく抱歉を使っていたので、こちらが公式的な表現だと思っていたのですが、実際には對不起>抱歉>不好意思≒歹勢という序列になるようです。

 

謝罪の仕方を誤ると、後々こじれるのは万国共通。

謝罪表現はしっかり押さえたいものです。