対日意識の深層
近年ステレオタイプとなりつつある台湾の「親日」。
しかし前回指摘したように日本統治時代を扱った歴史映画では、親日とは程遠く、日本人・日本権力が抑圧者として描かれることがあります。
どうも台湾人の深層心理としては、必ずしも積極的な評価をしていないようです。
確かに現在にまで残る近代建築や当時の高い教育水準などへの憧憬や日本の先進的な文化への憧れの表れとしての「親日」はあります。
海外旅行の人気渡航先の上位には必ず日本が入り、近年500万人近くが訪日していることからも、台湾人の日本好きは確かなようです。
ただ当の本人たちに聞いてみると、どうもそんなに単純ではないようです。
「日本好き」の背景に台湾は日本より遅れているという意識が見え隠れします。
そのような意識構造は特に若年層に顕著なようで、彼らの「親日」の真相を理解しようと試みると、先進的な日本と後進的な台湾の構図が浮かび上がります。
その好例が『BRUTUS』の台湾特集で、台南の伝統市場・國華街が表紙に取り上げたことでしょう。
この時表紙を飾った雑多な風景は台湾の後進性を表すものとして、大きな議論が巻き起こり、自分で好きな写真を同誌の表紙のフレームにアレンジできるアプリが一時爆発的にはやりました。
台湾の親日を語る際に、日本統治時代を肯定的にとらえる言説が出てきますが、外来政権による統治であることに変わることもなく、また砂糖や茶、ヒノキなどの台湾の物産が日本へ多く移出されたことなどから、日本統治時代は台湾人のアイデンティティーに少なからず陰を落としています。
歴史映画の演出効果で日本人、日本権力がネガティブに描かれるのはこのような台湾人のアイデンティティーの深層に根付く日本統治時代のネガティブな評価が表出されているためと言えると思います。
このようなネガティブな評価が現在言われているような「親日」へと転化しているのは、国民党政府による白色テロ・弾圧行動の歴史を経て、過去の歴史を回顧し、比較した際に日本統治時代がポジティブに浮き上がってくるというのが台湾人も認めるところです。
ここで注意を要さなければいけないのは、出自、年齢層などにより分化される台湾社会の特殊性です。
現象として一面的に見える台湾の「親日」も年齢層によりその背景は異なりました。
若年層は先進的な日本への憧憬として、高齢層は過去の歴史の比較の中から「親日」という現象が浮かび上がっています。
ただいずれも日本へのネガティブな感情が下敷きなっており、それが歴史映画などで表面化しているのだと思います。